未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―25話・特別天然記念物―



ガタゴト音を立てて、チョコボ車は緩やかな山道を登っていく。
話によると、2〜3日ほどで山を越えることが出来るらしい。
力自慢のオスチョコボが2頭で引くチョコボ車は、前と後ろにも同じ格好のものが3つある。
御者に聞くと、これは山賊に襲われにくくする自衛策だという。
まだまだ街道が未整備のためか、特にキアタル側は山賊が多いらしく、
こうして集団行動することで少しでも安全にする努力をしているのだ。
もちろん、護衛として冒険者や傭兵も雇っているのだが、
あまり多くは雇えないのも実情だそうだ。
「坊やたちは、これからどこまで行くの?」
「えっと……ダムシアンだよ。」
一緒に乗っていた女性に尋ねられ、プーレはそう答えた。
このチョコボ車自体は、ダムシアンの国境の町とキアタルの間しか往復していないが、
その後でさらに他の所へ行く人が多いのだ。
「そう。カイポ?それとも港の方?」
「え、えーっと……港です。」
「あそこはいいぞ〜。うまい魚も珍しい外国の物も入ってくるし、
何より都会だからな〜!」
女性と話していると、後ろの方から冒険者が話に乗ってきた。
どうやら行ったことがあるらしい。
何か教えてくれるかもと思ったエルンは、ここぞとばかりに聞いてみる。
情報収集目的というよりは、単なる興味本位だが。
「お兄さん、そこ知ってるのぉ〜?」
「おうとも。俺はカイポに住んでるけど、そっちに親戚がいるからな。
時々親戚のよしみでキャラバンの護衛してやるから、けっこう行くんだよ。」
数は多かれ少なかれ、道中に魔物や盗賊が出るのはどこも同じだ。
だから、ある程度金のある商人も、旅をする時は大体護衛を雇う。
カイポに住んでいるこの冒険者は、
どうやら親戚の護衛を頻繁にやっているようだ。
「そっかぁ〜。」
「ヘー……。」
話にそれなりの興味を示してうなずくエルンとは対照的に、
パササは大して興味もなさそうにつぶやく。
若いこの冒険者の話には、興味がないのだろう。
うまい魚という言葉には反応してもよさそうなものだが。
「パササ、お魚興味ないの?」
「おいしいお魚あっても、暑いところはきらいダヨー!」
食べ物の話なのに、とびっくりしているプーレに、間髪いれずにパササは叫んだ。
何しろ、気温が高めのキアタルでも傍目には元気にしていても、暑いのは大嫌いなのだ。
今でこそ少しは慣れたようだが、
実はバロンやトロイアの初夏頃の気候でも大敵である。
出身が極寒の島だから仕方がないが。
「えー、パササはヤなの?あたしなら、なやんじゃうなぁ〜。」
「え、なんで?」
暑いのは同じくらい嫌なはずなのに、エルンは何故か迷うと言う。
そんなに迷うほどのものがあるのか、
それともパササと違って魚のためなら暑くても我慢できるのか。
そう考えかけたプーレに、エルンは意外にも程があることを口走る。
「暑かったら、ほっといても焼き魚になっちゃうよね〜?
焼かなくても焼き魚だよぉ〜♪」
「え、えぇー……?」
憧れで目を輝かせるエルンのトンデモ発言には、
さすがにプーレも同意しかねて疑問の声を発する。
砂漠やその近辺が暑いとはいえ、それはなかったと彼は記憶していた。
当然、それにはルビーも同意する。
“いくら暑くても、さすがにそれはないからな……。”
魚が置いておいただけで焼き魚になるようなところに、
人間が住めるわけがないし、今から行こうともしないだろう。
少し考えればわかりそうなものだが、
年齢以前に、思考回路の軸がずれているエルンには言うだけ無駄だ。
「もし焼き魚になるようなところだったら、
よけい行きたくなーい!」
『同感。』
パササの実に明快で適切な意思表示に、プーレもルビーも同意した。


それから1時間ほど経った頃だろうか。
疲れていたのか退屈したのか、プーレ達はすっかり眠っていた。
するとその時、急に馬車が止まった。
その気配で起こされたプーレ達は、眠い目をこすって御者の方に聞いてみる。
「おじさ〜ん……どーしたの?」
「あぁ……。それが、この先落石で道がふさがってるんだ。
このあたりはよくあるんだけどな。
前の車の奴に聞いたら、大分崩れてて通れるようになるまで時間がかかるらしい。
今日いっぱいはここで足止めだなぁ。」
『えーーーーっ?!』
しかめっ面の御者の言葉で、3人とも甲高い声で叫んでしまう。
他の客が迷惑そうに顔をしかめているが、そんなものは見ていない。
何しろ、せっかく早く行けると思っていただけに、ショックで仕方がないのだ。
「道が通れるまでなんて待てるカー!」
パササが短気にもそう叫ぶが、言わないだけでプーレも同感だ。
確かに山の向こうの暑さは嫌だが、
こんなところで道が開くまでおとなしく待っているのはもっと嫌だ。
歩いた方が早い。根拠は無いがプーレはそう考えた。
「おじさん、ここで降りてもいい?」
「いいのか?代金は返せないぞ。
それに、また崩れるかもしれないんだし……。」
「平気〜。だって、おじさんここまで連れてってくれたでしょ〜?」
「ま、まあ仕事だしな……。って、おい坊主達!」
エルンのセリフで御者が少し毒気を抜かれている隙に、
プーレ達はさっさとチョコボ車を降りてしまった。
後ろから呼び止められるが、そんなことは気にしない。
とりあえず崩れたところまで、3人は見に行った。


道が崩れたという場所は、ちょうど切り通しになっている場所だった。
急な斜面の一部が崩れたらしく、大きな岩がいくつも重なって道をふさいでいる。
「わ〜、すごいねぇ〜。雪崩みたいだよぉ。」
「ホンとだ。これじゃたしかに通れないネー。」
2人が感心することもわからなくは無いくらい、それは見事な崩れっぷりだった。
屈強な男性達が懸命に復旧作業に当たっているが、なかなか大変そうだ。
確かに御者がいっていた通り、すぐには通れそうも無いし、
雪崩にもよく似た惨状だろう。
どこかに通れる道は無いかと探すと、
崩れた地点の手前、少しゆるい斜面を上がったところに通れそうなところを見つけた。
「あそこからなら、むこうにいけるかも。いってみようよ。」
『おー。』
さっそくそばの段差をよじ登って、3人は違う道を進み始める。
道とは言っても、人間に言わせれば獣道。
とりあえず方向感覚だけを頼りに、崩れていた地点よりも先を目指して歩き続ける。
すると、どこからかいい匂いがしてきた。
「クンクン……いいニオイがすルー♪」
「ほんとだぁ〜♪」
肉が焼けるおいしそうなにおいは、
食いしん坊の2人にはなまじの香水よりも魅惑的だ。
肉を種族的に食べないプーレには、あまり魅力的ではないが。
「あっちに人がいるのかな?」
“居るだろうな。特に危険な気配でもなさそうだ。”
“え、タカるのか?”
「そんなことしないヨ!」
エメラルドにからかわれて、即座にパササが反論する。
そうは言っても、人が食べていれば欲しくなるだろうが。
ともかくにおいをたどっていくと、
そこにはたき火で固まり肉をあぶっている少年が居た。
マントをかぶっているので少しわかりにくいが、年はプーレ達よりもはるかに上。
とはいっても15,6といったところだろうか。
プーレ達の存在に気がついて振り向いた顔は、元気そうな金色の目が印象的である。
「あれ、こんなところでどうしたんだ?お前ら、まだ子供だろ?」
「そーだよぉ。ねーねー、何してるのぉ?」
何でこんなところに子供がと不思議がる少年のことはお構いなしに、
エルンはきらきらと輝いた目で焼かれている肉を見つめている。
「何って、肉焼いてる。食いたいの?」
『うんっ!』
少年に聞かれて、パササもエルンも即答した。
その目には、もうジューシーな肉しか見えていない。
あからさまに嬉しそうな2人の態度に、プーレはあごが落ちそうになる。
「ちょ、うんじゃないってば2人とも!
さっきと言ってることがちがうよ!」
「そっかそっか、じゃあ少しだけなら分けてもいいぞ。
お前ら、動物だから生でも平気だよな。」
「うん!って、アレ?わかったノ?!」
あっさり流しそうになった少年の発言に、パササは驚いた。
においで種族が判別できる人間はいない。
まさか、この間あったパーティのように、彼も人間ではない別種族なのだろうか。
パササに言われて、少年もちょっと驚いたようだ。
「え?あ……ほら、おれってこの通り。人間じゃないんだ。」
ばれちゃったと決まり悪そうに笑って、少年がフードを取る。
彼の髪は、濃い赤と紫がメッシュ状に混ざった固い短髪。
そこまでは珍しいで済むが、驚くべきはその耳。
なんと、人間やエルフのような耳ではなく、まるで狼か何かのような三角の耳がついているのだ。
『えぇ〜っ?!』
「あ、そっかそっか。やっぱりびっくりするよな〜。」
予想していたらしく、
少年は1人で勝手に納得してうんうんと腕を組んでうなずいている。
いたずらを仕掛けられたようで、ちょっとくやしい。
しかし、逆襲は頼んでも居ないのに引き受けたものが居た。
“いやー、獣人なんてめっずらし〜。”
「うわわっ、い、今の声なんだ?!」
エメラルドのテレパシーが少年の耳にも入ったらしく、
彼は飛び上がるほどびっくりして忙しく辺りを見回し始めた。
その驚き様は、少年の耳を見たプーレ達といい勝負である。
“さーて、いつ気がつくかなー?”
“お前という奴は……子供で遊ぶんじゃない!”
知らない者は、まさか石がしゃべっているなどと思うわけも無い。
ニヤニヤしているエメラルドを、ルビーは彼にだけ聞こえるテレパシーを飛ばして一喝した。
全く、人をからかいたがる性格には困ったものだ。
初対面の人間をからかうものではない。
「エメラルド!知らない人をおどかしちゃだめだよ!」
最初のエメラルドの一声はプーレ達にも聞こえていたので、
やや遅れたがプーレもたしなめる。
だが、何も知らない少年には袋に向かって怒鳴っているようにしか見えない。
「え?え?どういうこと??」
「ありゃりゃ〜、わかんないかぁ。あのねぇ〜――。」
完全に頭の中がごっちゃになった少年を見かねて、
エルンは事情を説明することにした。


「ってわけで、あたし達は六宝珠と元に戻る方法と、
あとはプーレのお兄ちゃん探してるんだよぉ〜。」
エルンが今までの経緯をつたない口調で説明すると、
事情が大方わかったらしく、少年は何度かうなずいた。
「そっか、なるほど。そりゃ大変だなー。」
「そーなんだよねー。おかげでひどい目にもあったしサー。」
少年に同情された事で調子に乗ったのか、パササは全くだと憤慨する。
もらった肉を食べながら愚痴る姿は、まるでどこかの酒場に居る親父のようだ。
とうてい、見かけ5歳で実年齢1歳とは思えない。
「ところで、お兄さんは旅してるの?」
「あ、うん。おれはもうすぐ結婚する年だから、奥さんにする人探してるんだ。」
“へぇ……どこまで探しに行くつもりなんだ?”
色々な種族がやることだが、オスや男は近親婚を避けるために、
生まれた群を離れて妻を捜しに行くことが多い。
近くの群から探すこともあるが、時には足を伸ばすこともある。彼はどこまで行くのだろう。
「んー、世界中!」
『えーっ?!』
少年の威勢のいい返事に、
プーレ達はもちろん、珍しいことに六宝珠までテレパシーで絶叫した。
「せ、世界中〜〜?!」
「そんな遠くまでおよめさん探しにいくなんて、聞いたこともナイよ!!」
普通、そんなスケールで花嫁を探すなんて誰がやるだろうか。
少年の壮大すぎる花嫁探しの旅に、プーレもパササも目をむいた。
もちろん、エルンも彼女なりに驚いている。
「そんなことしたら、迷子になって足がくたびれちゃいそうだよぉ〜。」
“いやー、ご苦労さまー。ほんとに足が棒になりそうだ。”
“……お前ら。”
足がくたびれるとかそういう問題だろうかと、
ルビーはこっそりつっこみを入れたくなる。
エメラルドは分かってていってるだろうが、エルンの場合は天然だから恐ろしい。
「それよりさ、お前らは宝石と元に戻る方法を探してるんだろ?
お前たち子供だけだけど、大丈夫なのかー?」
「うーん、ときどき困っちゃうよぉ。高いところとか。」
高いところに手が届かないことよりも、
子供だけだと困ることはあるのだがとつっこむべきだろうが、
少年は気にしなかったようだ。
話を聞いて、少し考えているようにみえる。
「そっかー……そりゃ大変そうだ。よし、決めた!」
「え?」
唐突に言われて、プーレがきょとんとした顔で聞き返す。
すると、彼はこういった。
「お前らも世界中をうろうろしてるんだろ?
何だかずいぶん大変そうだしさ、せっかくだから一緒に行かないか?」
「わーい♪」
「えー、いいの?!」
「もっちろん!困ってる奴はほっとけないしさ。
おれ、フェストアルセス。長いから、適当に短くして呼んでくれよ。」
「じゃあ、アルセス!よろしくー☆」
香ばしい肉のにおいが招いてくれた、新しい仲間との出会い。
がけ崩れは足止めを食らわせた代わりに、仲間との縁に続く道を繋げたようだった。



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フェストアルセス加入です。
毎回思いますが、仲間が増える時を結構書くのは苦手です。
書くたび書くたびに思う、といっていいくらい無理矢理な気がしてならないのはなぜでしょう。
今回はまだましですが。てか、未来のかけらは積極的な仲間が多いですなぁ。